梶岡牧場

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”ヴィーガンの真実”を見て現場の『牛飼い』としての見解と想い

2022.02.02

TREE&NORFの徳本修一さんも,農業ジャーナリストの浅川芳裕さんも,時期は異なりますが,梶岡牧場に遊びに来られて深くお話しした方です。そのお二人の対談,そしてテーマが”ヴィーガン”とあらば,サムライ・カウボーイ梶岡秀吉としては,語らないわけにはいきません。
”ヴィーガンの真実”を見て現場の『牛飼い』としての見解と想いを少し。


 今回ヴィーガン動画を見て,ふと思い出したことがあります。
去る2018年に培養肉ベンチャー『インテグリカルチャー』の羽生くんとスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の講義に登壇した際,東京都立戸山高校の学生たちと議論し,

いつの日か、羽生さんがノーベル賞を取ったとき、今日の日を孫に自慢してやります!!w
「梶岡さん、梶岡牛の細胞ください」そう言った、細胞培養ベンチャーのインテグリカルチャー(株)、羽生さん。

https://www.facebook.com/hideyoshi.kajioka/posts/1918222131606411



 羽生くんは ”命を奪わず生産する”
 私は    ”命を繫ぐ生産をする”

 というフレーズに尽きる講義だったことです。

 そしてこの細胞培養がイノベーションで近未来から現実社会に浸透し始める昨今,『ヴィーガンvs培養肉vsリアル肉食』も議論されていくのかなと。

いきなり脱線しましたが,今回のテーマである『ヴィーガン問題』(敢えてw)では,よく『牛』がやり玉に挙げられ,動画にあったように反芻動物の『牛のゲップ』を片面から切り取られ,悪者にされてしまいます。

 どうやらここがキーのような気がします。そのゲップを出す反芻胃『ルーメン』は成牛で200Lの容積があります。その牛のルーメン内の微生物数は、牛の体細胞数400兆個のなんと5倍の2,000兆個!!

 『ルーメン』って『アーメン』の響きに似て神々しいですが,牛の第一胃のことでホルモンでいう所の『ミノ』はそれを収縮させる筋肉。そのいわゆる”培養タンク”で動画にも出てくる

『家畜用飼料の86%は人間が消化することができないもの』

をルーメン内の微生物たちが消化し,生成した揮発性脂肪酸(VFA)をエネルギー源として牛が利用し,牛肉や牛乳といったタンパク質として我々人間に提供してくれているのです。
 そういう意味では,ほんっと神々しいですよね。言うなれば『牛の皮を被った微生物たちの塊』であることを意味します。ですから

我々『牛飼い』は,実は『微生物飼い』なんですよね。


 また”しあわせホルモン”といわれ感情や精神面、睡眠など人間の大切な機能に深く関係する『セロトニン』の合成にはトリプトファンとビタミンB6が必要で,それらは牛肉から摂取するのが一番簡単なのも旧知のこと。牛肉を食べると幸せに感じる人が多いのは,そういった本能的な所に繋がっているのかもしれません。

 それを,

”人間が消化出来ないもの”から生み出して提供してくれているのも,

牛なんですよね。

そして,ルーメンを介した牛糞から生み出される堆肥も

反芻動物でなければ成し得ない”土づくりには欠かせないもの”なのです。

 先の培養肉生成装置,つまりバイオリアクター内で繰り広げられるのも,私の感覚では,広義な生体模倣化学『バイオミメティック・ケミストリー』で一つの選択肢。今は細胞の分裂や成長を促すホルモンが,gあたり数億~数十億円と激高額なので,200gの培養肉パテをつくるのに3,000万円のコストが掛かるらしい。

 インテグリカルチャーの羽生くんは,そこを日常生活レベルに落とし込めるようブレイクスルーする技術を有しているという事で「梶岡牛の細胞を下さい!」と。私はそれはそれで『あり』だと思ってます。
 

 ですから『ヴィーガンvs肉食』『培養肉vsリアル肉』のように,それぞれ片面を切り取ってフォーカスして大きくしたり,”グリーンウオッシュ”の材料に使うのではなく,

質実剛健な議論や真実を見つめることが大切だと思う。

  悪いところを上げればキリがないし,良いところを認めることが大切で,自分のライフスタイル,価値観に合った『食の選択』をすれば良いと私は思う。

 とはいえ,一方的に「畜産は悪だ!」みたいな話には一言物申さずにはいられません。。。

 なぜなら,私たちは現場で自分の命をかけて,牛たちの命と真剣に対峙しておりますので!

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